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印刷技術でつくる「ペロブスカイト型」と呼ばれる次世代太陽電池の開発競争が加速してきた。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は予算200億円を投じて、企業による実用化を推し進める。京都大学発スタートアップのエネコートテクノロジーズ(京都市上京区)もその対象の一社だ。同社は可視光領域の変換効率が高く、室内光でも発電できるペロブスカイト太陽電池の特徴を生かし、センサーやIoT向け製品を開発する。4月には半導体商社のマクニカと組み、ペロブスカイト太陽電池を使った二酸化炭素(CO2)濃度計測センサーの出荷を始めた。低照度の屋内電源から市場を開拓し、屋外用途という未来の巨大市場を狙う。
ペロブスカイト太陽電池は薄いガラスやプラスチック基板の上に液体を塗ってつくる。シリコンの結晶を成長させてつくる、既存のシリコン型太陽電池に比べ、製造コストが下がるとされる。
柔らかい基板に印刷すれば、折り曲げて使用でき、住宅の壁などにも設置できる。現状、光を電気に変える変換効率は大面積のシリコン型の20%超に比べ低いが、シリコン型がほとんど発電しない室内でも発電できる点は強みだ。性能は積層する材料設計などが左右する。エネコートテクノロジーズは最高科学責任者(CSO)を務める京大の若宮淳志教授の研究成果を生かすことで、この部分での優位性を確保している。
センサーに応用
ペロブスカイト太陽電池の事業化は東芝や積水化学なども挑戦しているが、多くの企業は高照度の屋外で使う製品の開発が中心。そのため加藤尚哉最高経営責任者(CEO)は「低照度の屋内向けの応用は競争相手が少ない」と語る。また、ペロブスカイト太陽電池は大面積化が難しく、耐久性が低い課題がある。屋内で使うセンサーであれば太陽電池が小さくても良く10年程度使えるため、こういった課題を回避できる。4月に出荷を始めたセンサーには乾電池を搭載しているが、将来は太陽電池だけで電力を賄えるようにするとしている。
2024年にはデバイスに搭載するペロブスカイト太陽電池の量産を始め、25年ごろにセンサー数百万個分の太陽電池を生産する計画だ。同時に現在15センチメートル角のセルを大規模化し、A3サイズのセルを製造できるようにする。ウエアラブルデバイスなどへの応用を目指す。
屋外用は25年に
一方、屋外用は25年までをめどに開発する予定だ。ペロブスカイト太陽電池は塗りムラなどによって性能が低下するという課題もあるが、「センサー向けはサイズが小さいため、塗りムラにはよりシビアになる」(加藤CEO)という。この知見を屋外向けの太陽電池に応用することで、塗りムラを抑え、変換効率を高める計画だ。併せて20年間使えるように耐久性を高める。
22年3月には約16億の資金調達を実施。科学技術をベースにした事業は実現のハードルが高いが、加藤社長は「想像以上に投資家が集まってくれた」とペロブスカイト太陽電池への追い風を口にする。気候変動対策の意味合いから投資家からの注目も高まっている。
自然エネルギー庁の資料によれば、日本の1平方キロメートルの平地における太陽電池の設備容量は19年度時点で426キロワット。2位のドイツの2.3倍に達する。電力需要に対して平地面積が小さく、設置が集中している。場所を気にせず設置できるペロブスカイト太陽電池はこういった課題を解決できる可能性を秘めている。再生可能エネルギーを増やすための切り札になりそうだ。
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