未来のエネルギー源は水素と言えるこれだけの理由

 米国のガソリン高が止まらない。6月14日には過去最高となる全米平均で1ガロンあたり5.016ドルを記録したが、最も高いカリフォルニア州では6ドルを超える価格が続いている。この影響もあり、電気自動車(EV)の売上が伸びている。カリフォルニア州では今年1−3月期、最も販売台数が高かったのがテスラモデルYとモデル3であり、プラグインハイブリッドを合わせたEV全体の販売台数が全体の17%を超えた。

 そこで問題となるのが電力の安定供給だ。Statista社の調査によると、全米の電力供給能力は2020年に年間で1062.6GWだったが、2050年には1681.5GWまで増加する見込みだという。

 現在の電力源は天然ガスが40%と最も多く、次いで再エネ21%、原子力20%、石炭19%となっている。しかし、米国政府が掲げる「2030年までに温室効果ガスを50−52%削減し、2050年にはゼロにする」という目標達成のためには、今後石炭は言うまでもなく天然ガスによる発電も大幅に削減していく必要がある。

・注目が高まる水素

SF市内を走る燃料電池バス

そこで注目が集まっているのが水素の存在だ。水素は水を電解分離することで得られるエネルギー源で、無尽蔵の資源とも言える。また再エネコストが下がり、今や最安値電力となっている米国だけに、ソーラーや風力で得られた電力を水素に変換することで無駄なく貯蔵、利用できる。

 さらに水素はメタンに変換することで再生可能天然ガスとして利用できる、という点でも評価が高い。液体、気体の双方で貯蔵や輸送が可能、さらに燃料電池という形で蓄え非常電力源や交通に利用される。

 水素の採取方法もさまざまなものがある。グリーン水素と呼ばれるのがソーラーなどの電力による電解だが、ブルー水素と呼ばれる褐炭から抽出方法もある。さらに現在では廃棄物を圧縮する際に出る水蒸気から水素を生成する、という方法を進めている企業もあり、グリーンからブルーまで、20種類以上の採取法が実験的に進められている。

・家庭用のガス供給も禁止するカリフォルニア

 水素導入に関して最も積極的な姿勢を見せているのはカリフォルニア州だ。同州では2035年から州内でのガソリン車販売を禁止する法案を模索している他、家庭用のガス供給を禁止する方針を次々に打ち出している。

 例えばロサンゼルス市は今年5月、市議会で「新たに建設される住宅や商業用ビルにガス配管を行わない」条例を賛成多数で可決させた。同時に今後ガスを利用する家電(調理用レンジ、衣類ドライヤー、ヒーターその他)の販売を禁止していく方針だ。実は同様の条例を持つ自治体は同州内で50を超えている(ただしガス利用に依存するレストランなどに対しては継続的にガス使用が認められる)。

 ロサンゼルス市で今年建設された低所得者用アパートメントはその好例とも言える。5階建て50室の建物にはガス配管がなく、屋上にはソーラーパネルが設置されている。オール電化なのだが、こうした建物にはオプションとして「グリーン水素による熱源を認める」方針が示されている。

 ただし、現時点では水素をガスの代わりに使用する、というのはまだ現実的ではない。天然ガスのパイプラインに最大で20%の水素を混入させる方法は確立されているものの、コストや設備面から一般への普及はまだ10年20年先になる、と予測されているのだ。

 しかし天然ガスを廃止する、という方針に最も影響を受けるガス会社が積極的に水素利用に取り組んでいる。北カリフォルニアのPG&Eは家庭への水素供給実験を独自に行っており、南カリフォルニアのSoCalGasは今年10月頃に水素エネルギーを熱源とするモデルハウスを建設し、実証実験を行う予定だ。

・トラック、バスで導入が進む

 さらに水素の積極的な導入が始まっているのは大型トラック、バスなどの交通機関。サンフランシスコ周辺では燃料電池バスが導入され、大型輸送トラック、ディーゼル機関車に置き換わる鉄道の利用が徐々に始まっている。EVとの違いは充電時間が節約できること、よりパワーが得られることなどだ。乗用車に関してはEVが圧倒的に優勢ではあるが、大型トラックやバスに対応する高出力充電設備はまだ十分とは言えず、燃料電池への期待が高まっている。

燃料電池トラック

また水素の生成と利用を一箇所に集めた水素ハブ計画も、政府主導で始まっている。パイプラインを長距離で行き渡らせるのがまだ難しい中、作った水素を現地で工場などで利用する、という考え方だ。全米に4−8カ所の水素ハブを設置し、工業向けの電力源や熱源として水素を利用する。この計画に米エネルギー省は最大80億ドルを投じるという。

 EV500万台時代が到来すれば、電力需要は逼迫する。バイデン政権は「50マイル(約80キロ)ごとに1カ所のEV用チャージステーション建設」という青写真を発表しており、そうなるとかなりの電力が必要となる。

 再エネが年間に9%程度の上昇を見せてはいる米国だが、それでも増え続ける需要をまかない切るのは難しい。それを補完する存在として、今最も有力な候補が水素なのだ。再エネで余った電力の貯蔵についても、水素に変換することで大型かつ長期の保存が可能となる。

 カリフォルニア州水素ビジネス評議会では本格的な水素社会の到来は10年後、としているが、今からそれに備えたイノベーションやインフラの設備投資が必要である、と主張している。そのためには政府による税制優遇その他のインセンティブも必要となる。しかし脱炭素、脱化石燃料を本格的に進めるためのオプションとしての水素の重要性は今後増していくことになるだろう。

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