新電力事業者の倒産急増。九州電力の買取拒否が引き金か

新電力の破綻が相次ぐ
エネルギー価格高騰に伴い、新電力と呼ばれる電力の小売り業者の倒産が急増している。送配電会社が再生可能エネルギーの受け入れを一時停止する「出力制限」が続出している。晴天で太陽光による発電量が増え、使いきれなくなったためだ。燃料高で東京電力ホールディングスなど大手電力が相次いで法人向けの新規契約を一時停止する事態も生じた。

 需要と供給を均衡させないと大規模停電につながる恐れがある。需給バランスの維持が難しくなっているのは、天候による発電量の振れ幅が大きい太陽光発電が急速に普及したのが一因だといわれている。新電力の経営破綻は構造的なものだ。燃料価格高騰で電力の調達価格が跳ね上がり、発電設備を持たない新電力の経営を直撃した。

帝国データバンクは2021年度(21年4月~22年3月)に新電力事業者の倒産が過去最多(最悪)の14件発生したと発表した。電力小売り事業からの撤退や新規申し込みの停止も相次いでおり、21年4月に確認できた新電力700社のうち4.4%に当たる31社が過去1年間で倒産や廃業・事業撤退したことが明らかになった。

 倒産した新電力の多くは自前の発電所を持っていない。電力の調達を卸市場に依存している。卸電力価格は21年1月に1キロワット=200円を超えた。新電力各社は調達コストの上昇分を販売価格に十分に転嫁しきれていない。事業者向け(特高・高圧分野)の価格は家庭用に比べて安価に設定されている。調達価格が販売価格を上回る逆ザヤ状態になっている事業者が多かった。

エネルギー価格の高騰と「ペナルティ」が重荷に

 22年3月、ホープ(グロース市場上場)の子会社で電力小売りのホープエナジー(福岡市)が300億円の負債を抱え、破産手続きの開始決定を受けた。ホープエナジーの電力契約先は自治体や公共施設など全国5000施設に及び、自治体などは新たな契約先の確保に追われた。

 旅行大手のエイチ・アイ・エス(プライム市場)は4月28日、新電力子会社のHTBエナジー(福岡市)の全株式を光通信の子会社HBO(東京・豊島区)に売却し、新電力事業から撤退した。売却損が発生したが金額は公表されていない。HTBエナジーは佐世保市の大規模レジャー施設、ハウステンボスのイルミネーションのコストが膨大なため電力小売事業へ参入した。オンラインで申し込みすることや沖縄県での販売が可能になったことから、設立して5期目に黒字を達成した。

 HTBエナジーの電力契約数は21年末時点で20万件と好調だったものの、エネルギー価格が高騰するなかで調達価格が販売価格を上回る逆ザヤが続いた。21年9月期の決算は売上高372億円に対して99億円を上回る巨額な純損失を計上、92億円の債務超過に陥った。2月以降、ロシアのウクライナ侵攻で、エネルギー価格はさらに高騰。必要とされる電力供給量を確保できなかった際に課されるペナルティーが経営悪化に拍車をかけた。急激な赤字の拡大は新電力会社に共通している。

「卸電力市場は、もともと余剰電力だから、安く調達できて当り前。それを販売することで商売が成り立ってきた。卸電力の価格が高騰すれば新電力はすぐさま赤字になる」(エネルギー担当のアナリスト)

 再生エネルギー事業は受け入れ制限はないという前提で始まったのに、九州電力が2018年に原発再稼働によって電力が余ることから「買取拒否」に踏み切り、それが全国の電力会社に広まった。その結果、再生エネの発電会社の経営が悪化。再生エネルギー発電所を持つ新電力も、ほぼ壊滅状態となり、海外に活路を求めるしかなくなった。

 こうしたなかで新電力のイーレックス(プライム市場)はベトナムで2035年までにバイオマス発電所を20基以上新設するビッグプロジェクトを打ち出した。総建設費は3000億円の見通し。コメのもみ殻や稲わらなどを燃料に使い、安価で安定した電力の調達網を立ち上げるという。輸入燃料に頼らないベトナム固有の電源を育成するのが狙いだとしている。

 イーレックスは2022年度に資本金30~50億円でベトナムに現地法人を設立。35年までに出力5万~13万キロワットの発電所を23基程度稼働させると報じられている。建設費は国際協力銀行(JBIC)や日本のメガバンクなどからの融資で賄う。23年度から順次着工する予定で、年間発電量は120億キロワット(日本の一般家庭の年間使用量に換算すると400万世帯分に相当)という。壮大な計画だ。光通信傘下のイーレックスには荷が重いのではないのかとの指摘もある。

ビジネスジャーナル

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