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生産時に二酸化炭素(CO2)を出さない再生可能エネルギー由来の水素「グリーン水素」を大量生産する動きが世界中で加速している。ただし、“その先”は実は選択肢が複数あり、コンセンサスは取れていない。
その先とは、生産した水素をどのような形態で保管・貯蔵、または輸送・運搬するかについてである。水素そのままでは体積が大きすぎて輸送・運搬はおろか保管もままならないため、何らかの工夫をする必要がある。
具体的には、およそ7通りある。(1)パイプラインで需要者まで送る、(2)圧縮してボンベなどに充填して運ぶ、(3)水素吸蔵合金に吸収させて運ぶ、(4)液化水素にする、(5)LOHC(Liquid Organic Hydrogen Carriers)に変換する、(6)アンモニアに変換する、(7)合成メタンや合成メタノールに変換する――である。(5)~(7)は水素ではないモノに一度変換して保管、運搬した後、水素に戻して使うか、水素の代わりに燃料として利用することを想定する。水素を運ぶ手段という意味で「水素キャリア」とも呼ばれる。
ここでLOHCは、水素を低分子の有機分子に変換する手法全般を指す。日本では、メチルシクロヘキサン(MCH)という有機溶剤が主な選択肢として、実証実験などが進められている。
(1)~(7)のうち、(1)はパイプラインが既にあればもっとも良い選択肢だろう。液化するためのエネルギー、または水素キャリアに変換したり戻したりする際のエネルギーを必要としないからである。実際、英国を含む欧州では第1の選択肢になっている。これらの地域では、天然ガス向けにこのパイプラインが発達しており、それを水素用にも転用しようとしている。現時点でそれが足りない地域では、新たに水素専用のパイプラインを敷設する計画も立てられている。
若干、不思議なのは、このパイプラインという選択肢が、日本ではあまり検討されていない点だ。福島県浪江町、東京湾岸の「HARUMI FLAG」、北九州市での実証実験などはあるものの、もはやそうした小さな規模で満足している段階ではないはずである。
資源エネルギー庁が公開している 報告書 リンク 「水素社会実現に向けた社会実装モデルについて」でも、「コンビナート内は原則パイプライン」としているが、都市間での水素輸送の選択肢としては事実上の検討外に近い扱いである。パイプラインを新設するコストが高いというなら、その試算ぐらいは示してほしいところだ。強いて言うなら、地震国の日本では地下に水素パイプラインを埋設することに懸念があるのだろうか。また、欧米の一部から、日本がアンモニアを使うことに対して批判があるのは、日本ではパイプラインがずっと少ないことを知らないからかもしれない。ただ、最近は欧米でもアンモニア利用への取り組みが進んでいる。
(2)と(3)については今回は詳説は避けるが、運搬せず、定置用の貯蔵だけならともかく、輸送・運搬の手段としてはあまりよい選択肢とはいえない。ボンベや水素吸蔵合金自体の重量が運ぶ水素の重量に対して無視できない割合で、空の容器の輸送も必要になる。しかも用途によっては相当頻繁に充填と運搬を繰り返すことになるからだ。
残る(4)~(7)についての“採点表”は、例えば、下記報告書が参考になる。
この中で今回取り上げるのは、(7)の合成メタンだ。ガス会社が推進していることは知っていたが、これまで筆者自身、液化水素やアンモニアなどに比べて、あまり重視してこなかった。一般家庭などの需要家に届ける上では、合成メタンは既存のガス管などが使えるために確かにメリットがある。一方で、(a)運搬には水素と同様、液化などが必要になる、(b)メタンを水素とCO2から合成する技術が確立しているか不明、(c)燃やすとCO2が出る、といった背景があったからだ。
ただ、(a)の運搬・貯蔵は確立され実際に運用している技術であり、既に設備も存在する。(b)についても技術的に確立しており、実証実験が行われている段階である(c)については水素をメタンを合成するときのCO2を空気中や工場から排出されるCO2を使うことによりプラスマイナスゼロ、つまりカーボンニュートラルが実現できるのである。
日経クロス記事から抜粋
合成メタンが流通すれば、火力発電から一般家庭まで現状の設備がそのまま使えてカーボンニュートラルが実現できるという記事に書かれたように『灯台下暗し』という言葉がぴったりくる仕組みになります。後はいかにCO2を抑えた水素を大量生産し、二酸化炭素を効率的に回収する技術とコストがクリアされるかだけなのだと思います。まだまだ大変なように思えますが、既存の発電施設や既存のパイプライン、エンドユーザー設備(コンロや給湯器等)がそのまま使えるという大きな大きなメリットと実現性があるこの合成メタンがカーボンニュートラルの救世主になるかもしれません。皆さんはどうお感じになられましたか?SCN:伊東