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九州の西端、五島列島の長崎県五島市は、再生可能エネルギーによって地域経済の“浮上”が始まった。浮体式洋上風力発電1基の稼働をきっかけに10億円規模の電力事業が立ち上がり、再生エネ関連で100人近い雇用が生まれた。人口減少に直面する離島で起きた“再生エネ経済革命”が起きている。
五島市民電力は2018年、商工会議所が音頭を取って有志52社が出資して設立した。地元の企業や社会福祉法人が太陽光発電所の電気を提供し、市内の企業や農協が営業で協力する“オール五島”体制で運営している。
市内の事業所や家庭の電気代は年30億―40億円。以前は全額が九州電力に支払われていたが、「40億円の20―30%は島に残るようになった」(清瀧会頭)と胸を張る。地元の家庭や事業所が五島市民電力と契約したためだ。「20―30%」を10億円とすると、10億円規模の事業ができたこととなる。離島にとって大きな経済効果だ。
燃料価格高騰の余波で多くの地域新電力が赤字に苦しむが、五島市民電力は黒字経営だ。「電気の仕入れを自分たちでやっているから」(同)と秘訣(ひけつ)を明かす。ただし、出資企業は配当を受け取らず、利益を地域に還元している。スポーツ以外にも文化活動での遠征費も支援するほか、農業振興にも役立てている。
地域新電力設立のきっかけとなった浮体式洋上風力発電は13年、環境省の実証事業として戸田建設が五島列島の沖合に設置。実証終了後の16年、五島市と戸田建設子会社による商用運転が始まった。
戸田建設は8基を増設する構想を描いており、総事業費200億円が見込まれた。地元経済に千載一遇のチャンスであり、「なんとか五島で風力発電をつくりたい」(清瀧会頭)と同社に懇願した。地元企業が中心となって「五島市再生可能エネルギー産業育成研究会」を結成し、島内に製造拠点を誘致した。
浮体式洋上風力発電の上部は鋼だが、海に沈んだ部分はコンクリートでできている。市内の事業者が製造を担うが、福江商工会議所の山田肇専務理事は「通常のコンクリートよりも高い品質が要求されるが、ニーズに応えている」と胸を張る。ほかに建設業者や塗装業者も関わる。雇用の効果として、2016年時には再生エネ関連の地元企業は4社、従業員は39人だった。8基の増設が始まった2022年は9社、従業員は95人に増えた。五島市は今後の経済波及効果を41億円、雇用を360人と見込むとのこと。
洋上風力に加え、島内の陸上風力や太陽光発電所を合計すると、五島市の電力消費量の半分を再生エネが占めている。さらに洋上風力8基が稼働すると再生エネ比率は80%に達し、“再生エネ先進地”となった。
風力保守人材、地元で育成
再生可能エネルギーによって地域経済に好循環が生まれ始めた長崎県・五島列島の五島市。浮体式洋上風力発電8基の増設完了が予定される2026年、市内の消費電力は8割が再生エネになる。脱炭素社会への転換を先導するビジネスも育っており、離島が脱炭素の最先地となる。
市内に訓練施設を整備
点検作業、全国90カ所
戸田建設などが浮体式洋上風力発電の増設を始めた22年、五島市の再生エネ関連企業は9社に増え、100人近い雇用を生んだ。
日刊工業新聞から抜粋