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原子力は、石油などの化石資源にとぼしい日本において、エネルギー政策上の重要な役割を担ってきました。その背景には、原子力発電所が設置されている地域(原子力立地地域)の住民など、関係者の理解と協力がありました。原子力立地地域は、原子力を通じて日本のエネルギー政策を支えながら、地域の持続的な発展を図るべく新たな産業創出の取り組みを進められています。以下は原子力と再生可能エネルギーや新エネルギーを組み合わせることで「ゼロカーボン・シティ」の実現を目指す、福井県敦賀市の取り組みの紹介です。
・原子力立地地域が挑戦する、持続可能な発展
原子力発電所の立地地域は、海に面した市町村で、平均人口は1万~4万人です。統計では、人口減少率および高齢化率が全国平均よりも高い傾向が見られます。
産業構造の視点から見ると、原子力発電所に従事する関係企業が多く集まるため、建設業や宿泊業、飲食、福祉などのサービス業の売り上げが全国平均よりも高くなっています。これは、原子力発電所の維持・運営が地域経済におよぼす割合が相対的に大きいということを意味します。また、自治体の財政も、国からの交付金や原子力発電所の固定資産税など、原子力発電所の状況に影響を受ける傾向が高くなっています。
しかし、本来求められるのは、原子力発電所の設置をきっかけとした地域の発展であり、それをバネに持続可能な産業を地域につくりあげていくことです。立地地域住民から国によせられる声としても、原子力発電所に依存しない地域振興の支援や協力を望むものが多くあります。
そこで国は、立地地域に地域産品・サービスの開発、販路開拓・PR活動などに知見を有する専門家を派遣することなどにより、人材育成・ブランディング・事業化など幅広い分野での支援を実施しています。そうして各地域の特性、資源を生かした事業を開発する中で、新たな名産品や観光名所が誕生したり、セカンドライフの拠点としての人気が高まったりと、持続可能な地域振興の成功事例もあらわれはじめています。
・ゼロカーボン・シティへ!原子力を活用した新産業創出
原子力立地地域のひとつである、福井県敦賀市。ここでは、原子力というエネルギーを生かしつつ、同じくCO2を排出しない再生可能エネルギーや水素などでエネルギーを“多元化”することにより、CO2ゼロつまり「ゼロカーボン」を実現しようという先進的な取り組みをおこなっています。そこで、敦賀市企画政策部の森川裕介氏(取材時)にお話をうかがいました。
敦賀市は、古くから大陸の玄関口として、港とともに運送業が発達してきた地域です。敦賀港は、水深の深い天然の良港であり、物流拠点として北海道・九州や海外航路ともつながっており、陸路でも、関西・中京と北陸とを、鉄道や高速道路で結ぶ交通の要所でもあります。また、多くの商人が出入りする中で、海産品加工業が成長してきました。これらの特長は現在まで受け継がれており、ふるさと納税では海産商品が人気となっています。
高度成長期以降は、日本原子力発電株式会社の敦賀発電所1号機および2号機、北陸電力株式会社の敦賀火力発電所が建設され、エネルギーの拠点都市ともなりました。そのような歴史的特性も踏まえ、敦賀市は、周辺地域との間で新しい産業・エネルギー・物流網のサプライチェーンの構築を目指しています。中でも注力しているのは、水素エネルギーの活用に向けた実証です。
水素エネルギーは、「利用段階においてもCO2を排出しない」「ボンベなどに入れて貯めたり運んだりできる上に、劣化や目減りが起きない」という特長があり、地球温暖化対策はもちろん、災害時などの有効な手段として注目されています。さらに、再生可能エネルギーの余った電力を使って水から水素をつくることができれば、製造から使用までカーボンフリーなエネルギーとなります。
敦賀市公設市場に設置された「水素ステーション敦賀」は、敷地内の太陽光発電の電力により水素を製造。燃料電池自動車に供給したり、「カードル」と呼ばれる専用の容器に水素を入れて保存し、必要な時に利用したりすることができるようになっています。
「今後、水素エネルギーを採用する長距離輸送用の大型トラックが増えていくだろう」という予想の元、敦賀市が輸送や交通の拠点としてさらに存在感を示していくためには、ゼロカーボンの水素製造に注力することが重要であるという判断がありました。このように先進的な取り組みを進めている敦賀市では、さらに、原子力発電所を活用した新しい水素プロジェクトも始まっています。
・原子力由来のカーボンフリー水素製造(パープル水素)を目指して
それは、関西電力が自社の原子力発電所でつくった電気を活用して、国内初の原子力由来の水素(パープル水素)を製造するという実証です。
軸となる産業を複数つくろうと努め、エネルギーの多元化に向けた水素サプライチェーン構築に取り組んでいる敦賀市を知った関西電力が、“原子力発電由来の水素”というクリーンなエネルギーを生み出すことで連携できれば…という思いをいだいたことが、この実証へとつながりました。
実証では、関西電力の原子力発電所でつくった電気が、送配電網を通じて「水素ステーション敦賀」へと供給され、水素製造に利用されます。原子力発電の電気から水素利用にいたるまでの一連のエネルギーの流れをトラッキングすることにより、その水素が原子力発電の電気によって製造されたことが特定可能となります。
原子力発電は、再生可能エネルギーと同じくCO2を排出しないエネルギーですから、原子力由来の水素もまたカーボンフリー水素(パープル水素)となるわけです。
このような試みを全国に先がけて実施し、いち早く事業化を目指すことは、地域経済の活性化を図り、地域産業の振興に貢献することにもなります。
地域のニーズに合わせた支援をおこない、未来を見すえたプロジェクトを進めることで、地域の方々とともに持続可能な地域振興を目指して行くとのこと。
資源エネルギー庁ホームページから抜粋