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兵庫県宍粟市千種町の黒土川を活用した「小水力発電所」が今月、稼働を始めた。地元住民が地域活性化を目的に合同会社を設立し、数々の苦難を乗り越え、約7年の歳月をかけて実現した。1年間の発電量は、一般家庭約50世帯分の年間使用量に相当する約20万キロワット時。売電で得た利益を活用し、地域の環境保全やにぎわいづくりにつなげるとのこと。
「黒土川で小水力発電をやらないか」。8年前、黒土川小水力発電合同会社代表の春名玄貴(はるき)さん(74)=同町黒土=が、自治会の総会で声を上げた。
同地区の人口は約200人。近年、少子高齢化がますます深刻になっている。「子どもや若者が減り、耕作放棄地も増え、山は荒廃した。地域は先細るばかりだ」。春名さんは危機感を強めていた。
黒土川では、1923(大正12)年から約20年間、水力発電所が稼働し、電灯用として一般家庭に電気が供給されていた。「水力発電の利益で地域のにぎわいを取り戻そう」。春名さんのアイデアに、集まった住民たちも賛同した。
小水力発電は河川や農業用水、上下水道といった流水を利用する発電設備。兵庫県では、千キロワット以下の水力発電を指す。
春名さんらは、京都市の再生可能エネルギーのコンサルタント会社に協力を求め、2~3年かけて黒土川の水量や環境の調査を実施。住民向けの勉強会も開いた。兵庫県の補助事業を活用しようと、2019年に地元住民の有志10人で合同会社を立ち上げた。
ただ、発電所の稼働までにはいくつもの壁が立ちはだかった。
地元住民からは、地下に配管を通すことになる田畑や水生生物への影響を懸念する声が上がった。春名さんらは、耐久性の高い配管を使用することや、発電所には農業用水の余剰水を使うことなどを説明し、理解を求めた。
新型コロナウイルス禍やロシアによるウクライナ侵攻の影響も受けた。設備の納入が遅れ、資材の高騰で総工費は約8800万円と当初想定を上回った。不足を補うため、急きょクラウドファンディングなどで資金を調達。ようやく稼働のめどが立った。
5月22日、千種市民協働センター(同町千草)で開かれた「黒土川小水力発電所」の竣工(しゅんこう)式。地元住民のほか、福元晶三市長や施工業者ら約40人が参加し、地域と事業の発展を願った。
同発電所は、オーストリア製の最新型の発電機を導入。黒土川の約50メートルの高低差を利用し、水車を回して発電する。最大出力39・6キロワットの発電量を見込む。
電気は、再生可能エネルギーの買い取り制度を活用し、関西電力に売電。収益の一部を使い、地域の里山保全やイベントの開催などを予定しているという。
春名さんは「将来的には地域の観光資源などを再興し、若者らを呼び込んで定住につなげたい」と力を込めた。
■県が補助金で設置を後押し
再生可能エネルギーの一つとして、近年、注目が高まる小水力発電。天候に左右されにくく、水の流れがあるさまざまな場所で発電が可能なため、各地で設置が進んでいる。
経済産業省資源エネルギー庁によると、2021年3月末時点で、千キロワット未満の水力発電設備は全国に622地点ある。
兵庫県は2014年度から、太陽光や風力発電などとともに小水力発電についても、地域活性化を図る団体に補助金を支給。発電効率の良い小水力発電所の開設を後押ししている。現在、宍粟市千種町・黒土川と神戸市灘区・六甲川の発電所の2例がある。
ただ維持管理や地元住民との調整などが簡単ではないため、相談や申請の数は伸び悩んでいるという。県の担当者は「要望があれば現地で説明会も開き、事業の導入に向けて応援していきたい」としている。
県内では現在、姫路市安富町で坑道ラドン浴施設を運営する一般社団法人「全日本地域振興事業機構」が、県の補助制度を活用し、小水力発電事業に参入する準備を進めているとのこと。
神戸新聞NEXTから抜粋