日本人が開発「薄くて曲がる」太陽電池

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髪の毛より薄い「ペロブスカイト」で生活が変わる

次世代の太陽電池として期待が高まる、ペロブスカイト太陽電池

政府が2030年までの早期に実装を目指しているのが、薄くて曲げられ、国産材料を使ったペロブスカイト太陽電池だ。この日本発の次世代太陽電池が実用化されれば、誰もがどこでも、気軽に創エネと省エネを実現できる。発明者である桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授は、街全体が「超分散型発電所になる」と語る。

世界各国の科学者から成る国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、温暖化をもたらしている原因が“人間”による活動であることは、「疑う余地がない」と断言する。温暖化という言葉は、柔らかい響きがあるが、海外メディアは「温暖化による公害」と表現する場合もある。

日本も決して無縁でない。特に大都市では、温暖化の影響に加え、ヒートアイランド現象で気温上昇が著しい。

気象庁によると、2021年までの約100年間の年平均気温の上昇率は、東京で3.3度、大阪では2.6度、名古屋では2.9度となり、都市化の影響が比較的少ない15観測地点の平均1.6度を大幅に上回っている。気温上昇により、夏は熱中症患者が増え、大気の状態が不安定化することで、記録的短時間大雨が各地で発生している。

排出されるCO2の約6割はライフスタイルに起因
温室効果ガスといえば、工場から立ち上がる煙などが思い浮かぶが、これは化石燃料などを使ってエネルギーを作り出す供給側から出ている。他方、そうしたエネルギーや製品を消費している側からみると、全体の約6割が住・食・移動・レジャーなどのライフスタイルに起因している(環境省)。このため脱炭素社会の実現には、個人の行動変容が必要となる。

日本発の技術が、個人の行動変容を助けるゲーム・チェンジャーとなる可能性がある。それが、次世代の太陽電池として急速に期待が高まっているペロブスカイト太陽電池だ。

ペロブスカイトとは、元々は鉱物の名称で、発見者であるロシア人鉱物収集家ペロブスキーから付けられたとされている。宮坂教授の研究チームは、この特殊な結晶構造を持つ化合物を利用し、光を電気に変えることを発明、2009年に最初の論文をアメリカで発表した。
ペロブスカイトの発電層は、0.5ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)と髪の毛よりも薄い膜で、これをフィルムの電極基板に被覆すると、厚みが0.2ミリ以下の太陽電池となる。現在主流の太陽光パネルに用いられているシリコン型太陽電池と異なり、薄く、軽く、曲げられるのが特徴だ。

また、インクの印刷のように、塗って乾かすだけなので、製造期間も短い。さらに、曇や雨の日、蛍光灯の光など弱い光でも発電する強みを持つ。主材料は国内で調達できるため、量産化が進めば、製造コストはシリコン製を下回ることが見込まれている。

ペロブスカイト太陽電池の主原料であるヨウ素は、海藻などにも含まれているが、深い地層から採取される古代海水である「かん水」から抽出、精製される。日本は通常、資源小国と考えられているが、ヨウ素に関してはチリに次いで世界第2位の生産量を誇る。

千葉ヨウ素資源イノベーションセンターによると、特に千葉県は世界中で利用されているヨウ素の約4分の1を生産しており、複数のヨウ素メーカーが生産拠点を置いている。

政府・自治体も普及に本腰、企業の製品化が鍵

岸田文雄首相は4月4日に開催された再生エネルギー関係の会議で、ペロブスカイト太陽電池について「2030年を待たずに早期に社会実装を目指す」方針を表明した。日本は大型の太陽光発電用の適地が少なくなっている中、政府は工場の屋根などに設置し、再生可能エネルギーの拡大を促したい考えだ。

宮坂教授は、実用化すれば電気代は、「大まかに言って、半分になる」と試算する。まさに良いことずくめの太陽電池だが、電池の耐久性(寿命)が課題として指摘されている。ただ、宮坂教授は、まだ製品化されていないので変換効率に加え、耐久性は現時点で「不透明」と語る。

すでに海外では生産販売を開始している企業があるが、日本では実証段階にとどまっている。宮坂教授は、日本企業に「目に見える形で、生産技術設備の建設に着手し、工場ラインを稼働する準備を早くしてほしい」と期待する。

日本企業の中では、東芝がフィルム型の同電池で大面積(面積703cm²)のものとしては、世界最高のエネルギー変換効率16.6%を記録している。同社は、2021年度から政府のグリーンイノベーション基金に参画。効率や耐候性に対する性能向上、量産化に向けた製品の基幹技術開発などを進め、2025年度の実装化を目指している。

先ずは企業向けに、既存の太陽電池では設置できなかった工場などで、負荷に弱い屋根やビル壁面などへの設置を想定しているという。

東芝のペロブスカイト太陽電池パネル

日本はかつてシリコン製太陽電池の開発で先行したが、価格競争で中国に敗れ、撤退した苦い経緯がある。しかし、ペロブスカイト太陽電池は、非常に高度な技術やノウハウが必要とされ、他国が簡単に模倣出来ないので、「撤退はない」と宮坂教授は強調する。

日本には高い技術があり、主原料も豊富にある。あとは、生活に自然に溶け込むような製品を企業がスピード感を持って世の中に送り出し、普及するかが重要となる。

東洋経済記事より抜粋

 

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