ゴミ処理場から天然ガス、アメリカ

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天然ガス生産は、数年ぶりの高水準にある価格のおかげで、ほぼどこでも採算が取れるようになった。だが企業が排出ガス削減に取り組み、廃棄物発電プロジェクトへの新たな税優遇措置が導入されたことで、ガス抽出による利益が最も大きい場所の一つはごみ処分場となっている。

「キーストーンごみ埋め立て地」の西側斜面にはパイプや分離膜、コンプレッサーが密集している。腐ったゴミの山から発生するガスを取り出し、メタンガスを他のガスから分離してペンシルベニア州北東部の天然ガス供給網へと送り込むためだ。

このガスプラントは「プロジェクト・アッサイ」と呼ばれ、ごみを資源とするガス施設としては最大規模。毎日6万5000世帯以上に供給できるだけのガスを生産している。運営する再生可能天然ガス生産企業アーキア・エナジーが、国内各地の埋め立て地に設置を進めているガスプラントのモデルだ。

世界最大の埋め立て地ガスプラント。ごみ埋め立て地で発生したメタンガスを他のガスから分離し、地域のガス供給網に送り込んでいる

1日に発生するガスの量は、大規模なシェールガス井から噴出するガスの量に比べるとわずかだが、埋め立て地から湧き出しているため、水圧破砕法(フラッキング)による岩盤からの採取ほど急速に減ることはない。さらに、埋め立て地のメタンには再生可能エネルギー活用の「クレジット」が付与される。このクレジットは別途取引が可能で、その価格はガス掘削で得られるものの何倍にもなり得る。さらに最近米議会で成立した気候変動・税制・医療対策を盛り込んだ法律による税制優遇措置もあり、再生可能エネルギーに分類される「バイオガス」の事業者にとっては経済的メリットが増している。

英石油大手BPが今後はアーキアの野望の後ろ盾となる。BPは創業4年のアーキアを、負債を含め41億ドル(約5600億円)で買収することで同社と合意した。石油メジャーや電力会社、廃棄物処理会社、パイプライン運営会社、プライベートエクイティ(PE)投資会社などが、バイオガスという大鉱脈に食指を動かしているが、BPの買収計画はこれまでのところ最大の賭けとなる。

北米最大の廃棄物処理会社ウェイスト・マネジメントは、自社の所有地で手がけるガス開発事業に8億2500万ドルを投じている。再生可能エネルギー大手ネクステラ・エナジーは10月、複数の埋め立て地ガス施設に計11億ドルを投資すると発表。英石油大手シェルは先週、欧州のバイオガス生産会社を約20億ドルで買収することで合意した。

BPが近いうちに買収を完了すれば、アーキアの共同創業者――ごみビジネスに参入するため、ウォール街での職を捨てた大学時代の仲間――やその投資家は大金を手にするだろう。特に、ライス一家(米最大の天然ガス生産会社の経営者)は何億ドルもの利益を約束されている。

BP幹部は、巨大エネルギー企業としての資金力と取引のノウハウを生かし、アーキアの年間利益を5年以内に10億ドルまで引き上げる考えだと述べた。

「当社は(アーキアを)次のレベルに高めるのを楽しみにしている」。BPの米国部門で石油ガスの陸上開発責任者を務めるデービッド・ロウラー氏はそう述べた。「当社にとって極めて重要なことだ」

埋め立て地はバイオガスの豊富な供給源に挙げられる。このほか酪農場や養豚場、廃水処理施設などからも発生する。メタンガス(商業的には天然ガスと呼ばれる)は、埋め立て地で古細菌(アーキア)と呼ばれる微生物によって作られる。

メタンは放っておくと二酸化炭素(CO2)や硫化水素、窒素、揮発性有機化合物とともに大気中に漂い、CO2以上に強力な温室効果ガスとなる。メタンを回収・処理すれば、クレジットを稼ぐことができ、それを製油業者や石油輸入業者に販売できる。米政府の再生可能エネルギー基準を満たすため、こうした業者はクレジットを利用する。

BPがアーキア買収で合意した頃、指標となる米国の天然ガス価格は100万BTU(英熱量単位)当たり7ドル前後で、同量のメタンに対する再生可能エネルギーのクレジット価格は約33ドルだった。これはプロジェクト・アッサイが産出するガスを約40ドルで販売できることを意味する。

埋め立て地ガスでは300枚余りの分離膜を用いてCO2をメタンから分離する

「埋め立て地はごみの山ではなく、再生可能エネルギー施設と考えるべき、というのがわれわれの立場だ」。アーキアのニック・ストーク最高経営責任者(CEO)はそう話す。他の創業メンバーとともに同氏もBPの一員となる。

ストーク氏は、ダートマス大学のクラスメートだったリッチ・ウォルトン氏と組み、埋め立て地ビジネスに参入した。「二人とも投資銀行で働き始めたが、そこが大嫌いだった」とウォルトン氏は言う。

彼らは2015年にピッツバーグ近郊の埋め立て地が売りに出されると聞きつけ、確定拠出年金(401k)を解約して契約金300万ドルの担保を用意した。「われわれはまともじゃないと誰もが思った」とウォルトン氏は振り返る。

排出物質をコンピューターで監視してみると、ごみの山にはメタンが充満していた。間もなく彼らはバイオガスの会議に顔を出すようになり、低予算のガスプラントを建設し始めた。

岩盤を掘削して抽出するガスに比べ、埋め立て地のガスは容易に入手できる。課題はメタンを他のガスから分離し、発電所や台所で利用できるようにすることだ。

アーキアの発想は、従来型処理施設の標準設計を用いてより安く迅速に建設し(2年に20基から1年で20基に)、経済的に実現可能とされてきた水準より狭い埋め立て地を使うことだった。「プロジェクト・アッサイ」はその典型となった。

この計画に共鳴したのがダニエル・ライス四世だ。同氏はライス一家がシェールガスで築いた資産から出資した。アーキアの創業者たちは、シェールガス層が広がるアパラチア盆地に寝泊まりして掘削を学んだライス氏の兄弟によく似ていた。ライス一家はライス・エナジーを設立し、それを天然ガス大手EQTに67億ドルで売却。米最大の天然ガス生産会社を誕生させた。一家は現在、EQTを経営している。

アッサイを進めていた昨年、彼らはアーキアをより大手の埋め立て地デベロッパーと合併させ、特別買収目的会社(SPAC)を通じて合併後の会社を上場させた。

アッサイは2021年末にはガス生産を開始。アーキアは今年5月、一般廃棄物処理会社のリパブリック・サービシズと同社所有の埋め立て地にプラントを設置する契約を結び、将来の見通しを高めた。証券当局への提出資料によると、企業買収専門会社のほか、BPなどのエネルギー企業から複数の提案を持ちかけられたという。

アーキアの株価は、米議会が気候変動法案をめぐる攻防を繰り広げていた夏にかけての時期に失速。だがバイオガス事業者に有利なインセンティブを盛り込んだ同法案が議会を通過すると、株価は他のクリーンエネルギー銘柄と並んで回復した。アーキアをめぐる争奪戦が活気づき、低炭素エネルギーに社運を賭けるBPがその勝者となった。

Wall Street Journal

 

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