「水素の大量輸送」その実現が近づいています。川崎重工が大型の液化水素運搬船を開発し、生産地からの水素の輸送を通じて、エネルギーコストを下げようとしています。“ガソリン並み”も視野に入っているようです。
利用時にCO2(二酸化炭素)を排出しない究極のクリーンエネルギーとして世界的に需要が高まっている「水素」を、石油やLNG(液化天然ガス)のように大量に積んで運べる船が実現しようとしています。
川崎重工業は国際的な水素サプライチェーンの商用化に向け、世界初となる大型液化水素運搬船を開発し、2022年4月にAiP(基本設計承認)を日本海事協会 から取得しました
船体には、舶用の液化水素貨物格納設備として世界最大の容積を誇る4万立方メートル級の液化水素タンクを4基搭載。積載可能な水素の容量は16万立方メートルと、現在のエネルギー輸送の主役である大型LNG船の主力船型(容量17万立方メートル)に匹敵する能力を持たせました。推進機関には水素を燃料として使用できる二元燃料ボイラーと蒸気タービンプラントを採用し、航行時のGHG(温室効果ガス)削減も図ります。
外観は従来のガス運搬船からイメージを一新。船首側に設置された流線形のカバーから船尾側のブリッジにかけ、空気抵抗の削減を意識したと思しき流れるようなデザインとなっています。
また、大量の液化水素を短期間で荷役するための貨物運用システムを搭載。陸上設備から船内の液化水素用タンクまで液化水素を気化させることなく、極低温のまま効率的かつ安全に移送するため、真空二重配管を採用しています。
今回、開発された大型液化水素運搬船は川崎重工の坂出工場で建造し、2020年代半ばに竣工する予定です。実現すれば、マイナス253度に冷却して体積を800分の1にした極低温の液化水素を、一度の航海で大量に海上輸送できるようになります。
まだまだ高い液化水素
川崎重工が大型液化水素運搬船の開発に取り組む背景には、水素の大量消費を支える供給手段を確保する目的があります。
政府がカーボンニュートラルの切り札として掲げる水素エネルギーは、すでに乗用車やバス、鉄道車両のようなモビリティだけでなく、発電や製鉄、航空・舶用燃料といった分野でも利活用に向けた研究開発が進んでいます。川崎重工は「水素需要の拡大のカギは発電利用」としてガスタービンによる水素燃料100%の発電実証を2024年中に始めるほか、三菱重工業も水素ガスタービンの早期商用化に向けた水素発電実証設備を同社高砂製作所に整備する方針を発表しています。
一方で経済産業省や資源エネルギー庁の資料によれば、現在の水素の供給コストは1ノルマル立方メートル(Nm3。気体の体積の単位)当たり約100円と、天然ガスの約13.3円/Nm3に比べて非常に高く、水素エネルギーの導入を進めるにはコストの問題を避けて通ることができません。
川崎重工の本井達哉執行役員(船舶海洋ディビジョン副ディビジョン長)は「水素供給コストの低減に大きく寄与できるのが大型液化水素運搬船だ」と話します。同社は、海外で水素を大量に製造し、それを大型の船舶で国内に輸入することでコストを下げられるとしています。
「カーボンニュートラルの実現には水素のコスト低減が重要な要素。2030年には30円/Nm3まで引き下げることを目標にしている。2050年には液化水素の流通量拡大により20円/Nm3となり、LNGや石油と同じレベルまでコストを下げることが可能だと考えている」