近年、温室効果ガス排出量削減のため、国際的に自然エネルギーが推進されています。自然エネルギーと言われて真っ先に思い浮かぶものとして、太陽光発電や水力発電、風力発電などを挙げる方も多いかと思います。
しかし、自然エネルギーにはそれだけでなく様々な種類が存在します。その一つ、潮力発電という自然エネルギーをご存知でしょうか。
潮力発電とは、潮の満ち引きを利用した発電の総称ですが、四方を海に囲まれた日本は潮力発電の設置のための好条件が揃っていると言われています。
それでは、潮力発電とはそもそもどのような発電方法なのでしょう。また、国内外で取り組まれている潮力発電の現状や、設置に向けた課題は何なのでしょうか。潮力発電とその仕組み。
潮力発電とは、月と太陽の引力で生じる潮汐によって生じるエネルギーを電力に変える発電方法のことをいい、潮流発電と潮汐力発電の2つに大別されます。両者の違いについてですが、水平方向の流れを利用した発電が潮流発電であり、垂直方向の位置エネルギーを利用した発電が潮汐力発電とされます。
具体的に、潮流発電システムとは、海水の流れる運動エネルギーを活用し、電気エネルギーに変換することで、電力を発生させる発電システムになります[*2]。潮の流れの速い海峡などで設置され、図1のようなタービンを使って発電を行います。
潮力発電のメリット
潮力発電のメリットとしては、1つ目に、タービンを回す際の化石燃料を必要としないという点が挙げられます。一般的に、石炭火力発電の場合、蒸気タービンならタービンを回すために空気を温め蒸気を発生させます。その時、化石燃料を使い蒸気を発生させるため、CO2が発生します。
一方で潮力発電は、タービンを回すのに自然の力を活用するので、タービンを回す際CO2は発生しません。そのため、エコな発電方法として期待されています。
2つ目のメリットとしては、太陽光発電や風力発電と異なり、天候に左右されにくいという点です[*4]。潮の満ち引きは、地球と月の動きで計算できます。そのため、どの時期にどれだけ発電できるかの見込みが立てやすく、電力の安定的な供給に繋がるという点が大きなメリットとされています。
潮力発電の課題
一方で、潮力発電には課題もあります。1つ目の課題としては、コストの高さが挙げられます。例えば、潮流発電の発電コストは、プレ実証プロジェクト時には59〜70円/kWh、実証プロジェクトになると23〜32円/kWhでした。石炭火力の発電コストが12円台後半/kWh、家庭用太陽光発電の発電コストの17円台後半/kWhであることと比べても、割高なことが分かります[*5]。
2つ目の課題としては、耐久性です。潮力発電はタービンを海水につけた状態で稼働させるため、材料の腐食が発生しやすく、発電機内部への漏水が生じる危険性があります。また、タービン部分においてスクリューが十分な水を押し出せない空回りに近い状態が生み出されると、無駄なエネルギーが消費されて機器の効率が低下する可能性があります。この時、動翼表面の壊食が引き起こされることもあり、耐久性を向上させることが将来的な実用化に向けた課題となります。
その他、海域の利用に際して、漁業権との調整が挙げられます。海域での発電設備の設置は海域や漁業資源にも悪影響を与えかねません。また、潮力発電は、潮の流れが強い海域や満ち引きの大きい海域など、設置できる場所が限られています。四方を海に囲まれている日本においても、東日本沿岸には適地が多くなく、充分な発電量を確保できる場所の確保が課題として挙げられます。
世界における潮力発電
様々なメリットと課題のある潮力発電ですが、世界各国ではどれほど、また、どのように運用されているのでしょうか。
潮力発電の歴史は古く、1966年に世界初の潮力発電所がフランスで作られたとされています。フランス北西部、ブルータニュ地方のランス川河口に作られたランス潮力発電所は、最大出力24万キロワットとされ、半世紀経った現在でも稼働しています。しかしながら、干満の差が一定以上ないと発電ができない点や、海水をせき止める貯水池を作る必要があるなど、設置までに様々なハードルがあります。そのため、実用規模で展開されたのはランス発電所のみで、近年までは中国やカナダ、ロシアで小規模プロジェクトが開始されたのみでした。
各国の取り組み
しかしながら近年、自然エネルギーの積極的な推進に伴って、大規模な潮力発電を開発する国も多くなっています。例えば、海洋エネルギーのうち、潮流発電(Tidal Current Energy)は大部分を占めており、導入量も年々増加しています。
島国であるイギリスが積極的に海洋エネルギー技術開発に着手していることが分かります。例えばイギリス周辺の2014年にスコットランド北部のペントランド海峡に、MeyGen(メイジェン)社によって世界最大の潮力発電装置アレイを建設することが発表されました。当プロジェクトによって、完成後には17万5000世帯(合計398メガワット)に電力が供給可能とされています。2016年から徐々に稼働が開始しており、現在は252メガワットまで供給されています。
また、スコットランド周辺海域は潮力発電に適した地域であるため、メイジェン社のプロジェクト以外にも、多くのプロジェクトが実施されています。
日本における潮力発電の現状
日本では、1980年代に日本大学グループにより、ダリウス式水車(垂直軸型のタービンにより発電を行う水車)を用いて瀬戸内海・来島海峡で世界初の潮流発電に成功しました。その後、徳島大学や海上保安庁などで潮流発電の開発、実用化が進められましたが、海上保安庁が開発したシステムで最大35kWと小規模な発電であり、一般的な普及とまではいきませんでした。
しかしながら、海洋エネルギーポテンシャルが高く、温室効果ガス削減手段として有効である潮力発電を促進するため、近年では、潮力発電の実証プロジェクト等が実施されつつあります。
例えば、海洋エネルギー発電システム実証研究において、潮流発電と海流発電に関する8事業が実施されました。また、環境省では平成26年から長崎県五島市久賀島沖にて「潮流発電技術実用化推進事業」を実施するなど、本格的な稼働に向けて多くのプロジェクトが実施されています。
潮力発電普及にかかる課題
以上のように、国内では実用化に向けた取り組みがされていますが、現在のところ商用化には至っていません。
国内で潮力発電が商用化出来ていない要因としてまず、費用対効果の面での課題が挙げられます。
潮力発電のコストは狭い海峡など地形に大きく依存します。国内では西日本に適地が集中しているとされますが、その中で大型タービンが設置可能な場所はさらに限定されるため、費用対効果に見合った発電所を建設するのが難しいという現状があります。
2つ目課題として、漁業権等の法制度との調整が挙げられます。潮力発電に限らず海洋エネルギーを活用するためには、様々な法規制との調整が必要となります。
例えば、漁業区域で潮力発電の設置時には漁業法や水産資源保護法など様々な法律を遵守する必要があります。漁業法では、埋め立てなど公共事業の施工により漁業権が制限される場合に、漁業者に補償が必要となるなど、設置や運用コスト以外の費用も検討しないといけません。また、稼働後は公害対策基本法や水質汚濁防止法など環境に配慮した運用が求められています。
日本では海洋や環境にかかる規制が多いため、設置・運用に向けたハードルが高いことも課題の一つと言えます。
今後の展望
島国である日本にとってポテンシャルの高い潮力発電ですが、政府は2050年までに潮流・海流発電合わせて200億kWh/年の発電量になると見込んでいます。
しかしながら、コストに見合った地形の選定や法規制との調整など、潮力発電導入に向けた様々なハードルが存在しています。官民一体となって潮力発電の研究支援や設置促進を行っていけるかどうかが、今後のカギとなるでしょう。