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今年2023年3月、ヨーロッパ連合(EU)は2035年以降、ガソリンなどで走るエンジン車の販売を全面的に禁止する方針を転換し、e-fuel(合成燃料)のみを使用する自動車は2035年以降も容認すると発表した。
e-fuelは再エネ電力由来の水素とリサイクル利用の二酸化炭素(CO2)を合成して作るカーボンニュートラル燃料だ。 自動車の脱炭素化=電動化(EVシフト)だが、新たに作る自動車はよいが、既存のガソリン車を電動化することはできない。走っている自動車すべてのCO2を削減するためにもe-fuelへの期待は高い。
■風と水からカーボンニュートラル燃料
現在、南アメリカ・チリで世界初となる商業規模のe-fuel製造プラント構築を目指すHaru Oniプロジェクトが動き出している。「Haru Oni」は先住民の言葉で「強風」を意味する。プロジェクトのサイトがあるチリ南部のマガジャネス地方は、強い風が年を通して安定的に吹き続ける風力発電には最適の場所だ。
この電力を使って水を電気分解すれば、低コストでグリーン水素を製造できると期待されている。もう一つの原料CO2については、大気中のCO2を直接捕集するDAC(Direct Air Capture)と呼ばれる手法を採用している。
CCS(二酸化炭素回収貯留)は工場などの排ガスからCO2を回収して地下貯留するのでカーボンニュートラルだが、DACはもしCCSと同じように捕集したCO2を地下貯留すれば、カーボンニュートラルを超えて大気中のCO2を実質的に減少させる(=ネガティブエミッション)画期的な技術だ。
Haru Oniプロジェクトでは2021年7月からプラントの建設がスタートし、昨年12月には最初の製品として2600リットルのe-fuelが出荷された。製造能力は、パイロットプラント段階の現在は年間130キロリットルであるが、2025年に5万5000キロリットル、2027年に55万キロリットルへと、規模を拡大する計画だ。
プロジェクトメンバーにはチリ電力会社AMEの関連企業HIFグローバル(Highly Innovative Fuels Global)、シーメンス・エナジー(ドイツ)、ポルシェ(ドイツ)、エネル(イタリア)、エクソンモービル(アメリカ)などの大手企業が名を連ねる。
プロジェクトオーナーはHIFグローバルだが、実質的にプロジェクトを主導するのはドイツの2社だ。シーメンス・エナジーは風力発電機、電解装置など主要機器のサプライヤーであり、システムインテグレーターとしてプロジェクト全体を統括する。ポルシェはHIFグローバルの設立時からの出資者で、本プロジェクトのオフテイカー(製品の購入をあらかじめ約束)でもある。また、ドイツ政府からは800万ユーロ(約12億円)の助成金が出ている。
プロジェクトを主導するドイツの2社(およびドイツ政府)には2つの狙いがあると思われる。1つ目は技術と資金を提供してチリの安いグリーン水素を囲い込むこと。2つ目はグリーン水素製造やDACの低コスト化に向けた技術実証を進め、e-fuelの実用化にメドをつけることだ。
■ドイツのエコカー戦略とe-fuelの位置づけ
ドイツがe-fuelの開発・実用化に熱心なのにはワケがある。ドイツを始めヨーロッパの自動車メーカーは、クリーンディーゼルを排ガス対策の中軸とする戦略を採ってきた。ところが2015年にフォルクスワーゲンの排ガス検査不正が発覚し、クリーンディーゼルはクリーンなイメージを失墜し販売台数は激減した。
そこでドイツ(およびヨーロッパ)のメーカーは一斉にEVを軸とする戦略に転換した。この結果、ヨーロッパ自動車市場でEVシフトが進み、2022年のEV販売台数(プラグインハイブリッド車を含む)は約260万台、新車販売台数に占める比率は21%に達した。
ところが、EVシフトが進むことはドイツにとってよいことばかりではない。ガソリン車やディーゼル車など内燃機関の車は、3万点もの部品をすり合わせて1台の完成車を作り上げる。そのため、ドイツのような自動車大国には高い技術を持った部品産業が集積している。
一方、EVは部品点数が半分程度で、モジュール化された部品も多く、技術的ハードルは内燃機関の車より低いとされる。EV比率がどんどん高まると、ドイツの部品産業は仕事を失い、雇用を守れない、ということになりかねない。もしe-fuelがモノになれば、部品産業を守ることができ、完成車メーカーも強い競争力を持つガソリン車やディーゼル車を作り続けることができる。
こうしたドイツ自動車業界の思惑はEUの脱炭素政策にも影響を及ぼしている。EUは2035年以降、ガソリンなどで走るエンジン車の販売を全面的に禁止する方針だったが、ドイツ政府がe-fuelを使用する車両は認めるべきだと主張。イタリア・東ヨーロッパ諸国もこれに同調し、今年3月、条件付き容認に方針転換した。今後、燃料の基準や利用方法など詳細を詰め、今年秋には正式決定となる見込みだ。
ここで問題となるのはe-fuelの環境性だ。工場などで排出するCO2を再利用(CCU:二酸化炭素回収利用)して、これを化学製品やセメントなどの原料に使う場合はよいが、e-fuelの場合には使用すれば燃焼してCO2を排出することになる。この排出責任を原排出者(工場など)と最終排出者(e-fuel使用のエンジン車)のどちらが負うかがポイントとなる。仮に半々とすれば、e-fuel側の削減率は最大でも50%にとどまる。
EUタクソノミーでは非バイオマス由来の再生可能燃料(RFNBO=Renewable fuels of non-biological origin)の基準をCO2削減率70%以上と規定している。2035年以降のe-fuel使用車を容認する方針の詳細(CO2削減基準など)はいまだ公表されていないが、おそらくRFNBO基準が準用されることになろう。そうなると、CCUを利用したe-fuelはクリーン燃料と認定されない可能性が高い。
他方、大気中から捕集したCO2を使って製造したe-fuelであれば、走行中にCO2を排出してもカーボンニュートラルだ。チリのHaru OniプロジェクトでDACが使われているのはそのためだ。
■割高なe-fuelの製造コスト
もう一つの、そして最大の課題はコストだ。この数年、再エネ発電のコストが急速に低下し、グリーン水素の製造コストも大幅に下がった。それでも現時点でe-fuelの製造コストはガソリンの数倍高い。
資源エネルギー庁の試算によれば、e-fuelの製造を原料調達から製造まですべて国内で行う場合、約700円/リットルのコストがかかる。このうち約9割がグリーン水素のコストであり、その内訳は電気分解に使う再エネ電力のコストが大半を占める。海外の水素を輸入し国内でe-fuelを製造するケースは約350円/リットル、すべて海外で製造するケースは約300円/リットルと試算されている。
■実用化には海外との連携が不可欠
特に日本は、地形的に太陽光パネルや風車を並べる平坦な土地が少ないことや、気象条件に恵まれていないハンディもあり、再エネ発電コストが高い。e-fuelを低コストで大量に生産するためには、再エネ発電コストの安い国でe-fuel製造プロジェクトを組成し、輸入サプライチェーンを築いていくことが必要となる。
Yahoo!ニュースから抜粋
e-fuelを「自動車脱炭素化」の一つとして推進するなら、現状のエンジン車を何も改造せず、そのまま継続できてしまいます。
あんなに「2035年以降、エンジン車の販売を全面的に禁止する」と言ってEVを強要していたEUが、完全に大きな抜け穴を設けたもので、はっきり言って合意が霧散したと言っても過言ではないでしょう。
しかしe-fuelですが、あまりにも不合理です。クリーンエネルギーからの水素生成だけでも大変なのに、それに大気中からCo2を回収して水素と合成して製造するというのですから私供、素人にもその大変さというか困難さが伺えます。それと製造できたとしても運用面においてe-fuelとガソリンをどう区別して管理するのでしょうか?ガソリンの偽装や闇流通の大きな懸念が予想されます。世界はどこに向かおうとしているのでしょうか。本当に心配です。皆様はどうお感じになられましたか?SCN:伊東